ノンケの同僚・三浦と一線を越えてしまった夜

リアルノンケ食い

前回の記事では、「ノンケとバイの違いは本当に明確なのか?」というテーマについて書きました。

当時、僕と彼――三浦は同い年で、どちらも20代半ばでした。
社会に出て数年が経ち、「そろそろ結果を出さなきゃいけない」「まだまだ踏ん張りどころだよな」と、互いに言葉にはしなくても、同じような焦りを抱えながら働いていた時期です。

そんな中で、ひとつのプロジェクトを任されることになり、三浦は他部署からアサインされてきました。
最初は当然、仕事上の距離感でしたが、年齢が同じだと分かってからは、少しずつ打ち解けていきました。
敬語もいつの間にか崩れて、気づけば普通にタメ語で話すようになっていました。

三浦はいわゆる体育会系出身で、大学時代はアメフトをやっていたそうです。
顔立ちは正直、ものすごいイケメンというわけでは無かった気がします笑。
ただ、不思議と人懐っこさがあって、場の空気を和ませるのが上手い。
職場でも男女問わず好かれていて、「こういうタイプが自然にモテるんだろうな」と、納得してしまうような存在でした。

仕事を一緒に進めるうちに、自然と会話も増えていきました。
残業終わりに軽く飲みに行ったり、金曜の夜に「どうせ明日休みだし」と、どちらかの家に遊びに行って、そのまま泊まってしまったり。
特別な意図があったわけではなく、同い年で気を許せる相手だったからこそ、そういう距離感になっていったのだと思います。

当時の僕は、三浦のことを「ノンケ」としてしか見ていませんでした。
彼女の話も普通に聞いていましたし、それを疑う理由もなかった。

それでも、前回の記事で書いたような、“ノンケとバイの境界線”について考えざるを得ない出来事が、少しずつ積み重なっていきます。
これは、その境界が静かに揺れ始めた、ある夜の話です。

その夜は、夏の盛りでした。
仕事終わりに飲みに行き、冷房の効いた店から外に出た瞬間の蒸し暑さに、二人して顔をしかめたのを覚えています。
話が弾けすぎて、気づけば終電はとうに過ぎていました。

「もう帰れないよな」

彼はそう言って笑いました。
困った様子はなく、どこか楽しそうでした。

そのまま、彼の家に向かいました。
夜でも空気が重く、歩くだけで汗ばむような暑さです。

部屋に入ると、彼は「先シャワー浴びる?」と聞いてきました。
遠慮する理由もなく、「じゃあ先もらう」と答えます。
シャワーを浴びても、正直あまり涼しくはなりませんでした。

部屋に戻ると、今度は彼がシャワーを浴びに行きました。
しばらくして戻ってきた彼は、上はランニングシャツ、下は短パンでした。
仕事中のスーツ姿とは、あまりにも違います。

鍛えられた腕や肩のラインが、隠す気もなく露わになっていました。
アメフトをやっていた体つきが、そのまま生活の中にある感じです。
それなのに、本人はまったく気にしていない様子でした。

「暑すぎるだろ、今日」

それだけ言って、特に気にした様子もありません。
タオルで髪を拭きながら、いつも通りの調子です。

そう言って、当たり前のように冷蔵庫を開けます。
その無防備さが、妙に落ち着かなくさせました。
普段はきちんとスーツを着て、仕事をしている男が、こんな格好で目の前にいる。
そのギャップに、意識が引っ張られてしまいます。

そのまま客用の布団を床に並べました。
夏の暑さもあって、ブランケットは使わず、そのまま横になります。

「電気消すぞ」

三浦がそう言い、部屋が暗くなりました。

布団一枚分の距離。
エアコンの音と、互いの気配だけが残ります。

明け方、暑さで何度か目が覚めました。
ブランケットかけずに眠っていたのに、身体の火照りはなかなか引きませんでした。

ふと目を開けると、彼は仰向けに寝ていました。
眠っているのか、浅い眠りなのかは分かりません。
ただ、耳を澄ますと、かすかな寝息が規則正しく聞こえてきて、その無防備な姿に思わず視線が止まりました。

夏の夜特有の、だらしない寝相。
そして、三浦の朝立ちしているのがはっきりと分かりました。

見てはいけないものを見てしまった、という感覚でした。
同時に、胸の奥が一気に熱くなるのが分かります。
でも、そのまま目を逸らすことができませんでした。

気づかれないように。
悟られないように。
そう自分に言い聞かせながら、ほんの一瞬、距離を詰めてしまいました。

時間にすれば、ほんのわずかだったと思います。
僕は三浦の股間に手を伸ばし、その硬くなった三浦のちんこの形を確認しました。
その時、彼の呼吸が少しだけ変わった気がしました。

すぐに体を引き、何事もなかったように横を向きます。
心臓の音がうるさくて、眠れるはずもありませんでした。

頭の中には不安が浮かびます。
もし今ここで三浦が目を覚ましたら。
もし、この状況をはっきり認識されたら。

同僚で、同い年で、同じ会社の人間です。
このあとも、何事もなかった顔で職場に立てるのか。
会議室で隣に座れるのか。
そんな現実的なことばかりが、急に現実味を帯びてきました。

もしかしたら、彼は何も気づいていなかったのかもしれません。
もしかしたら、すべて分かった上で、何も言わなかっただけなのかもしれません。

彼はそういう人です。
人の気配に敏感で、それでも踏み込まずに距離を保てる。
優しさと、少しのあどけなさを併せ持った人です。

夏の暑さのせいにしてしまいたい夜でした。
けれど、あの明け方を境に、彼のことを「ただの同僚」として見ることは、もうできなくなっていました。

プロジェクトは、なんとか無事に完了しました。
最後の報告を終えた瞬間の解放感は、今でも覚えています。

「終わったな」

三浦はそう言って、肩を軽く叩いてきました。
いつも通りの調子です。
あの明け方の出来事が、まるで何もなかったかのように。

けれど、変わってしまったのは自分の方でした。
あの夜から、三浦を意識してしまうようになっていました。
ランニングシャツ姿の無防備さも、明け方の静かな時間も、そして三浦の朝立ちして触れたちんこの形が頭から離れません。

それでも三浦の態度は、まったく変わりませんでした。
仕事ではいつも通り。
飲みに行けば、これまでと同じ距離感で肩を並べる。

あの出来事を、覚えていないのか。
それとも、気づいていて触れないでいるのか。
分からないまま、時間だけが過ぎていきました。

僕と三浦は、どちらも夏休みをまとまって取れる状況ではありませんでした。
それでも「打ち上げくらいしよう」という話になり、無理やり日程を合わせました。

「近場でいいから、どっか行くか」

三浦がそう言い、結局、車で行ける範囲の2泊3日のドライブ旅行が決まりました。
二人きりです。

助手席に座りながら、ハンドルを握る三浦の横顔を見ます。
仕事中とは違う、少し緩んだ表情。
エアコンの風に髪が揺れ、サングラス越しに見える目が、どこか楽しそうでした。

日常から少しだけ切り離された空間。
会社の同僚でも、プロジェクトの担当者でもない時間。

そんな状況に、ほんの少しだけ期待している自分がいました。

もちろん、三浦には彼女がいます。
遠距離で、なかなか会えないと聞いていました。

「この前さ、久しぶりにやっと会えたんだよな」

そう言って、スマホの写真を見せてくる。
自然体で、隠す様子もありません。

それを見ながら、胸の奥が少しだけざわつきます。
やっぱり、三浦はノンケなのだと、改めて思い知らされる。

それでも。

車の中で二人きりで笑い合い、夜になれば同じ宿に泊まる。

あの夏の明け方を知っている身としては、何も起きないとは、どうしても思いきれませんでした。

期待してはいけない。
でも、もしかしたら、と考えてしまう。

プロジェクトの達成感と、三浦への意識と、二人だけの2泊3日。
そのすべてが、静かに重なり始めていました。

二日目は、驚くほどあっという間でした。
朝から観光に出て、よく歩き、よく笑いました。
仕事の話はほとんどせず、ただの旅行として過ごす時間が、妙に楽しかったのを覚えています。

夕方に宿へ戻り、温泉に向かいました。
湯気の向こうで見る三浦の体は、昼間以上に現実味がありました。
アメフトをやっていた名残がはっきり分かる、無駄のない体つきです。
肩や背中の厚みもそうですが、三浦のちんこもしっかりと確認でき、それはもう男らしく、しっかりと目に焼き付けました。

正直に言えば、興奮していました。
普段はスーツに隠れているものが、すべて露わになっている。
それだけで、理性が少しずつ削られていくのが分かります。

部屋に戻り、浴衣に着替えた三浦を見たとき、その感覚はさらに強くなりました。
浴衣というだけで、どうしてああも無防備に見えるのか。
体のラインが曖昧に浮かび上がり、歩くたびに布が揺れる。
その隙間から覗くものに、いちいち意識が持っていかれます。

夕食を終え、部屋に戻ると、三浦は冷蔵庫を開けました。
「まだ飲むだろ」

そう言って、缶を二本取り出します。
テレビをつけっぱなしにして、畳に座り、何気なく酒を開ける。
旅先の夜らしい、ゆるい時間でした。

画面にはバラエティ番組が流れていて、たまたまオネエのタレントが映っていました。
笑い声に紛れて、会話の温度が少しずつ変わっていきます。

「こういう人、最近よく見るよな」

三浦が何気なく言います。
そこから、話題は少しずつ、ズレていきました。

「男相手って、実際どうなんだろうな」
「想像つかないよな」

冗談の延長のようでいて、どこか間がありました。
あの日の朝のことを、どちらも口には出しません。
でも、ここまで自然に話が流れている時点で、分かっていました。
三浦も、気づいている。
あれを、なかったことにはしていない。

「男同士で、ってこと?」

「まあ……そう」

短いやり取りのあと、間が生まれました。
テレビの音だけが、やけに大きく感じられます。

「ああいう人たち見てるとさ」
「ちょっと気になるっていうか」
「自分は違うけど、どういう感じなのかなって」

探るような言い方でした。
否定でも、肯定でもない。

そこで、こちらも少しだけ踏み込みます。

「じゃあさ」
「もし、相手が……俺だったら?」

冗談とも、本気とも取れる言い方だったと思います。
自分でも、どちらのつもりなのか分かりませんでした。

三浦はすぐには答えませんでした。
視線を落として、少し考えてから、ぽつりと言います。

「……それは」
「正直、想像できるかも」

その一言で、十分でした。
あの日の朝のことを、口に出さなくても分かります。

それでも、もう一歩だけ、確認せずにはいられませんでした。

「俺で、いいのか?」

今度は、はっきりと。

三浦は一度だけこちらを見て、すぐに視線を外します。

「お前とだったら」
「一回くらい、やってみてもいいかなって思った」

淡々とした言い方でした。
でも、逃げはありませんでした。

好意がある、なんて言葉は出てきません。
それでも、もう十分でした。

触れてはいないのに、もう互いに、気づいていないふりはできない。

この夜が、ただの打ち上げで終わらないことを、二人とも、はっきりと分かっていました。

きっかけが何だったのかは、今でもはっきりとは思い出せません。
沈黙だったのか、視線だったのか、それともごく自然な距離の近さだったのか。
ただ、どちらからともなく顔が近づき、次の瞬間には唇が触れていました。
自分からだったのか、三浦からだったのか。その点はもう曖昧です。
けれど、「最初にキスをした」という事実だけは、確かに残っています。

触れた瞬間、頭の奥が一気に熱くなりました。
会社の人間と、しかも同じプロジェクトを一緒に走り切った相手と、こんなことになるとは思ってもいませんでした。
その“あり得なさ”が、理性よりも先に興奮を連れてきたのだと思います。

三浦の唇は、思っていたよりも柔らかかったです。
乾いているわけでも、湿りすぎているわけでもなく、体温がそのまま伝わってくるような感触でした。
触れた瞬間、軽く息が混ざるのが分かって、それだけで胸の奥がざわつきました。

キスは、すぐに深くなったわけではありません。
確かめ合うようで、どこか探るようで、途中で何度も止まりそうになりました。
それでも、離れる理由だけは見つかりませんでした。

気づけば、僕の手は三浦の体に伸びていました。
浴衣の上から触れただけで、はっきりとした変化が伝わってきます。
躊躇いながらも、そっと股間に触れると、すでに三浦のちんこは十分すぎるほど大きく硬く反応していました。
僕と同じように、三浦も興奮している。
それが分かった瞬間、胸の奥が妙に満たされてしまいました。

この時はほとんど無意識に動いていた気がします。
三浦の下着の中に手を入れ、直接その熱を確かめている自分がいました。
硬くて太い三浦のちんこをゆっくりとさすると、三浦の口元から声にもならない喘ぎ声がかすかに聞こえてきました。
同時に、三浦の手もこちらに伸びてきて、同じことをしているのが分かります。
言葉はありません。
けれど、互いに「分かっている」という感覚だけが、確かに共有されていました。

いつの間にか、僕らの浴衣は床に落ちていました。
静かな部屋に流れているのは、つけっぱなしのテレビの音と、キスの音だけです。
その不釣り合いな組み合わせが、現実感を少しずつ薄めていきました。

お互いの浴衣を脱いだとき、初めて、三浦の体を真正面から見ることになりました。
布に隠されていたものが、一気に現実として目の前に現れた、そんな感覚でした。

鍛えられているのは知っていました。
温泉でも、その輪郭は何度も目にしていましたし、普段の服の上からでも、体の厚みは十分に伝わってきていました。
それでも、改めて向き合うと、想像していた以上でした。

「これに触れていいんだ」

そう思った瞬間、胸の奥にこみ上げてきたものがありました。
憧れとか、興奮とか、達成感とか、そういう単語では整理しきれない感情です。

僕は三浦の胸元に顔を寄せ、反応を確かめるように彼の乳首を舌で触れました。

「…ぁっ」

軽い気持ちだったはずなのに、彼の息遣いはすぐに変わります。
意外なほど、そこが敏感であることが分かり、少しだけ可笑しくなりました。

その流れのまま、自然に体を下へと移していきました。
会社で何度も顔を合わせ、仕事の話をしていた相手と、こんな距離で三浦のちんこと向き合っている。
その事実だけで、頭がどうにかなりそうでした。
触れ方や、伝わってくる反応のひとつひとつが、現実離れして感じられます。

僕は三浦のちんこを目の前にして生唾をごくりと飲んでから彼のちんこを口の中に含みました。

三浦のちんこは今にもはちきれんばかりで、僕の口の中はパンパンでした。
舌で必死に三浦のちんこを舐め回し、その反応をじっくりと味わっていました。

三浦は同僚にそんなことをされている恥ずかしさからなのか、喘ぎ声はなかなか聞こえず、それでも身体は正直でたまにビクンと反応して僕はそれに興奮していました。

僕はこの時間が、長くは続かないことは分かっていました。
彼はノンケで、彼女もいます。
明日になれば、きっと何事もなかったように振る舞うのでしょう。
だからこそ、僕は今この瞬間を逃したくありませんでした。

僕は、三浦の体のあらゆる場所に触れ、確かめるように、丁寧に舐め回し愛撫していました。
肩、胸、腹部、そして指先。
そのひとつひとつに、「これが最後かもしれない」という意識が伴っていました。

行為そのものよりも、強く残ったのは、選んでしまったという実感です。
戻れない一線を、僕は確かに越えていました。
その重さと、同時に覚えてしまった確かな熱が、静かに胸の奥に残っていました。

三浦が、僕のちんこをフェラしてくれた時には素直に嬉しかったです。
動きはぎこちなくて、正直うまいとは言えませんでした笑。
けれど、それがかえって彼らしくて、思わず笑ってしまいそうになる瞬間もありました。
慣れていないことが、伝わってくる。
それでも、逃げずに向き合おうとしていることだけは、はっきり分かりました。

そのまま、僕たちは何も言わず、お互いの股間に顔を埋められるよう、体勢を変えました。
何かを相談したわけでも、合図をしたわけでもありません。
言葉を交わさないまま、互いの存在だけを感じ取るように、距離を詰めていきます。

三浦が僕のちんこを舐めて、僕が三浦のちんこを舐める。
静かな部屋で聞こえるのは、お互いがお互いをフェラするその音と、わずかな動きの気配だけでした。

時間の感覚は、とっくに失われていました。
どれくらい続いていたのか、正直分かりません。
ただ、終わらせたくないという気持ちだけが、確かにありました。
このまま、ずっと続けばいい。
そんなことがあり得ないと分かっていながら、どこかで本気でそう思っていたのです。

それでも、体は正直でした。
互いに限界が近づいていることは、触れなくても分かります。
呼吸の乱れや、動きの変化が、それを教えてくれていました。

その夜、お互いの身体を求め始めてから三浦が初めて交わした言葉は、とても短いものでした。
「一緒にイこう」
それだけでした。

三浦も僕もお互いの身体を求めて、お互いのちんこを舐め回し、その行為がどんなことであれ相手を喜ばせたい、そんな感じで最後の瞬間を迎えようとしていました。

「あ、そろそろイキそう」

三浦がそう言う頃、僕も彼の手の動きもあいまって限界が来ていました。

「うん」

口で三浦のちんこを咥えながらそう言うと、僕は絶頂を迎え、三浦の口の中に我慢していたものが快楽とともに一気に流れていくのを身体全体で感じていました。

と同時に僕の口の中にも熱いものが勢いよく流れてきました。
三浦の精子はめちゃくちゃ濃くて、量も多かったのを今でも覚えています。

「あ”あ”っっ!!あ”あ”っっ!!」

三浦はこれまでの少ない喘ぎ声と反して、めちゃくちゃ大きな喘ぎ声を出していました。
隣の部屋を気にするくらいに。

僕は三浦の精子が口の中に溢れていることに感動していました。

さっきまで隣でテレビを見て、仕事の愚痴を言い合っていた、同じ会社の、同じプロジェクトを担当していた男。
その三浦の精子を、今、自分が受け止めている。

これは欲情というより、感動に近かったのかもしれません。
同僚だった男の存在が、タブーを犯してまったく別の意味を持って自分の中に刻まれていく。
その瞬間に立ち会っているような、不思議な高揚感がありました。

次のことは、あまり細かく覚えていません。
同時に、すべてが終わった。
それだけは、はっきりしています。
互いに力を使い果たして、しばらくは動けませんでした。

限界まで続けていたせいで、体は正直に疲れていました。
腕も、脚も、頭の中も、すべてが重たい。
それでも、不思議と嫌な感覚はひとつもありません。

最高の夜だった。
後から振り返っても、その感想だけは変わりません。
後悔がなかったと言えば嘘になります。
けれど、それ以上に、「確かにそこにあった時間」を否定する気にはなれませんでした。

何も言わずに並んで横になり、天井を見つめているあの静けさまで含めて、
あの夜は、僕の中で特別なものとして残っています。

朝、目を覚ました瞬間、ここがどこなのか分かりませんでした。
一瞬だけ、自分の部屋だと錯覚するほど、頭の中が静かだったのです。
けれど、天井の色と差し込む光の違いで、すぐに昨夜のことを思い出しました。

ここは宿だ、と理解した瞬間、昨夜の感触がはっきりと胸の奥によみがえります。
夢にするには、あまりにも鮮明でした。

部屋の中を見ると、三浦はすでに起きていました。
身支度をしていて、表情も態度も、ほとんど普段どおりです。
「おはよう」と声をかけると、
「お、起きた?」
と、いつもの調子で返ってきました。

その自然さに、少しだけ拍子抜けしました。
けれど、よく見ると、動きや視線の置き方が、どこかぎこちない。
何事もなかったように振る舞おうとしているのが、逆にはっきり分かってしまいます。

それでも、昨夜のことにまったく触れないままでいるのは、さすがに不自然でした。
部屋を出る準備をしながら、沈黙が続いたあと、僕の方から切り出しました。

「……昨日のことさ」

三浦は一瞬だけ動きを止めて、短く息を吐きました。

「……うん」

それ以上、言葉は続きません。
少し間があってから、彼は視線を外したまま、こう言いました。

「まあ、あれだな。なんか、勢いもあったし」

「そうだね」

それだけでした。
深掘りするでもなく、結論を出すでもなく、ただ事実として確認しただけ。
お互い、それ以上踏み込まない方がいいと、どこかで分かっていたのだと思います。

それ以降、昨夜の話題が出ることはありませんでした。
チェックアウトを済ませて、帰りの道中も、いつもと変わらない会話をしました。
仕事のこと、次の予定のこと、くだらない話。
不思議なほど、元の関係に戻っていきました。

その後も、会社では普通に一緒に仕事をしましたし、何人かで飲みに行くこともありました。
三浦と二人で話す機会も、これまでどおりありました。
それでも、あの夜のことが話題に上ることは、一度もありませんでした。

なかったことにした、というより、触れないまま大切にしまっておいた、という方が近い気がします。

数年後、三浦が結婚したという話を人づてに聞きました。
特別な感情が湧いたわけではありません。
驚きも、納得も、どちらもありました。

それでも僕の中には、確かな感触だけが残りました。
後悔とも違う、達成感とも違う、説明しきれない何か。
境界線を越えたからこそ、はっきり見えたものがあったのです。

「ノンケとバイの違い」という言葉を、これまで何度も考えてきました。
でも、この体験を通して分かったのは、その違いは、肩書きや自己認識だけで決まるものではない、ということでした。

状況と、関係性と、ほんの少しの選択。
それらが重なったとき、人は簡単に境界線を越えてしまう。
そして、越えたからといって、必ずしも何かに分類されるわけでもない。

あの夜は、確かに存在しました。
それだけで、僕にとっては十分だったのだと思います。

タイトルとURLをコピーしました